少しの論理的思考で人生を豊かにする。

ドイツの研究者のブログ。ライフハック的なことだったり、仮想通貨に関してだったり、機械学習だったり。雑多なことを書き連ねます。

論文を書くにあたって

どうも、まさです。

今回は、学術研究に関してです。論文の書き方について。

学生の指導で必要だった資料の日本語まとめですが、駆け出し研究者や、学生、それを指導する側の人には役に立つと思います。初学者にありがちなミスなども書いてます。

一応、生態学が無意識にベースにあるかもで、分野によっては全然違うかもしれません。また、人によってスタイルが違うことも理解してください。

 

ここで書いたこと以外にも、以下の本はオススメです。

Paul J. Silvia著:How to write a lot

酒井 聡樹著: これから論文を書く若者のために

吉岡 友治著:シカゴ・スタイルに学ぶ論理的に考え、書く技術

 

これも大事じゃない?というのや、お勧めの本、書くのに困っていて意見が欲しいなどがあれば、コメント歓迎です。

 

 

 

文章を書くのは難しい

とにかく毎週数回は時間を決めて書くこと。というのも、文章を書く能力というのは筋力や体力と同じで、継続することで着実に能力が伸びていくものだから。学術本How to write a lotにもあるように、とにかく書く量を増やすことで、文章を書く力が伸びていく。また、文章を書くことは誰しもが心理的に苦手であるということは知っておくべきで、そういった心理的抵抗を取り除くには、とにかく書き始めることが一番の特効薬である。とりあえずは、一度書くと決めたら、1~2パラグラフ書くのを目標とするとよい。

また、時々行き詰ることもあるけれど、それは今のアプローチでPlateauを迎えてしまっているから(頭打ち)。大事なのは、手が止まることが多くなった時点で「ああ、頭打ちだ」と早めに気づくこと。打開策としては、新たに別の視点からの書き方のInputを入れること。文章を書くコツといったものや、Natureなどの高品質ジャーナルでの上手い文章を精読するなど。また、査読も客観的に文章を批判する練習になるので良い。

重要なパラグラフは、一文目を書くのは非常に難しい。イントロダクションや考察、アブストラクトの一行目など。なぜなら、それがストーリーの大枠の方向性を決めるものだから。なので、そういったキーセンテンスを書くときは、複数書き並べたりすべき。一方で、上手くかけずに手が止まってしまう場合は、とりあえずまとまっていない状況でも頭の中にあることを書きなぐってみることで、徐々に脳の中で理解が進み、次の日当たりに案外すらっと書けたりする。

この「脳が勝手に理解をする作業」をうまく使うのは非常に重要で、だからこそ集中的に一度に一気に書き上げることはオススメできない。一気に書き上げて終了!となると、このプロセスを使えない。同じ時間数文章を書くにしても、継続的に(週2回とか)書き続ける方が、この脳の理解の再構築プロセスをうまく使え、より文章が書きやすくなる。

 

 

全体像をクリアにするには

アブストから書き始めるとよい。良い研究というのは論点・論旨が極めて明確であり、完結にまとめることができる。一方で、まとめた際にあれもこれも言いたい、となってしまうのであれば、それは自分の中でその研究成果をうまくDigestできていない証拠。非常によく引用されている論文やNatureクラスのアブストを読んでみると、一貫して明確なことが分かる。

  また、文章を書き進めていくにつれて、何度も論旨に重要なキーセンテンスを訪れて、方向がぶれてきていないかを確認すべし。

 

パラグラフを論理的に立たせる

全体像、ストーリー、骨組みが決まったら、各パラグラフの構成を考える必要がある。学術的な書き方で知っておくべきは、トピック・センテンスという概念。これは、そのパラグラフを代表する文章で、たいていはパラグラフの一文目に書く。このパラグラフはこのトピックに関して書きますよ、という予告のようなもの。更には、その一文目において、自分の主張はこうだ、というのも書いきってしまった方が、論旨が明確になるので良い。その後の文章で、何故そうやって主張できるのかを、文献を引用したり、ロジックを説明したり、例を書いたりしてサポートする。また、考えうる反証があれば、それも自分から敢えて述べつつ、否定する。特にこの考え方は、イントロと考察で重要視したい(手法と結果はそれぞれ再現性、客観性をメインに置くため)。

 

論理構成が拙い場合

初学者は基本的に論理的に筋を通った文章を書くことができない。一番ありがちなのが、論理の飛躍。AだからBで、それが成り立つならCだ、というべきところを、AだからCだ、と書いてしまう。これは、自分の頭の中でロジックが明確過ぎるときに起きてしまいがちだ。自分が執筆に没頭しているときは、やった研究の全体像から細かいところまですべて頭に入っているので、「AだからBで」というワンクッション必要なところが書かれていなくても、頭の中で無意識のうちにそれを想起して補完してしまい、その論理の抜けに気付けないのだ。

これの対処法として、書ききったら数日から数週間原稿を寝かせておいて別の作業に没頭し、頭がリセットされた状態で読み直すこと。たいてい、間違いが見つかる。論理が飛んでいると流し読みしていて少しつっかかる所があったりする(例えば、あれ?これどういう意味だ?と少し考え込んだり)。そういった時は何か情報が足りないことがほとんどなので、何を書き足したらよいか丁寧に考えるとよい。リセット→読み直しの作業は複数回行うこと。また、声に出して読んだり、文章で意味することを頭の中で(もしくはノートの上で)順番に図示してみるとよい。目で追っているだけでは気づけなかった点に気付くことができる。自分ではこれ以上論理の飛躍を見つけられない、となったら、別の思考回路を持つ共著者の出番。

 

序論

スタンスにもよるが、4~5パラグラフくらいが理想。あまりに長いイントロだと読むのに疲れてしまうし、そもそも長く書かなくては本論に入れないのであれば、その研究自体が分野の中でかなり細かい、末端・枝葉のようなトピックを研究している可能性がある。また、初学者にありがちな間違いとして、まるでレビューかのように「分野のまとめ・全体像」を書いてしまうことがある。そうではなく、イントロはあくまで自分の研究の新奇性(Novelty)と重要性(Importance)を主張し、読者を惹きつけるためにある。イントロダクションの最後のパラグラフで目的を述べる、手法や結果、アプローチが複数入っている研究は全体のOutlineを書くのもあり。

以下はパラグラフ構成の例:

①分野内の人であれば共通認識であり、関連分野の人が読んでも理解できるような全体像(大きな枠組み・課題といった分野の重要性)を述べる、②やや特定のトピックに絞り、これまでにやられてきた研究について簡単に紹介しつつも、それら共通かつ重要な課題を提起する。③その課題を解くのに必要な着眼点・アイデア・アプローチを説明。いかに斬新で筋が通った解法であるかを説明する。また、この解法によって課題が解けたとき、どのようなインパクトがあるのかを説明、④必要に応じて、研究対象をやや細かく説明する。生物なら、なぜその種を対象にして研究するのが適しているのか、など。⑤目的やアウトライン。

 

手法

手法で一番重要なのは、再現性(Reproducibility)。分野にとって新しい手法を書くときは、ある程度どういう手法なのかを書くべきではあるが、あまりに細かく書くのは不必要な突っ込みどころを見せてしまうので良くない(注:都合の悪いところを隠せ、と言っているのではなく、あくまで議論すべき論旨とは関係のないところで不必要に読者に猜疑心を与える必要はない、ということ)。どのように手法が動くか、というよりも、何故その手法が必要だったかを書くとよい。

また、統計解析をするときなど、データが手に入った段階では複数のアプローチが考えられてしまう。統計手法の仮定が当てはまっていれば、正直どれを使ってもよい。ただ、大事なのは、あくまで全体の本論の主張を支持するのに必要な結果を出すことだというのは意識しておきたい。複数あってどれでもよさそうなのであれば、一番シンプルなものを選択する方がよい。

 

結果

初学者にやりがちなこととして、得られた結果を全て載せる、結果を得られた時系列順に紹介する、というのがあるが、これらは避けたい。あくまで、読者は本論に直結するような結果を簡潔に読みたいのだ。あくまで主張を支持するのに必要な結果とそれに関連する前提的な検証結果を載せ、それ以外のサポートは付録に載せるようにすること。

結果は主観的な解釈を伴う文章を含めないように注意。ただし、結果が意味することがやや難解で、意図を解釈するのに数ステップを要するのであれば、言い換えを付け足すとよい(例えば、この文章とさっきの文章を組み合わせて考えると、客観的にこう言えるよね、といった場合)。その場合には、客観性を保ちつつ、言い換えによって結果が示唆することをより明瞭にすること。

 

考察

1パラグラフ目は主張のまとめをするとよい。イントロダクションで紹介した仮説や論点に対する答えを、簡潔な前提のまとめとともに書く。初学者にありがちなこととして、得られた結果の順番に対応して細かいところから考察を書く、というものがあるが、これは避けたい。読み手は考察まで到達するのにかなり疲弊しているし、最後まで丁寧に読み切ることは滅多にないのだ。という観点から考えるに、考察では最初の2~3パラグラフで面白い着眼点や、論旨に必要な議論をすませてしまうべきだ。

各パラグラフで、結果で書いたことを再度書きまくってしまうのは悪手。よほど結果が多い場合にはそうやって読者の手助けをするのもありかもしれないが、そもそもそれだけ多くの結果が本論を支持するのに必要なのか?ということをまずは考え直したいところ。

考察で書くべきは、主に①結果に解釈を与えて、示唆できる主張を述べる、②類似・関連した研究(関連する理論、実験、観測や異なるスケールなど)と比べて、得られた結果が同様のことを支持しているのか、または違っているのかを書く。違う場合は、なぜ違うのかをしっかり考え抜いて論理的に説明することは、新しい発見につながるので面白い。③結果から示唆できることを誇張しないために、留意すべき点や懸念すべき欠点を述べる。ただしあくまで建設的な観点から述べ、それらを留意しつつもここまでの範囲なら結論付けられそうだ、ということも述べる。④示唆したことから今後できることや、今後の展開を述べるのもあり。

結果を得た直後としてありがちなのが、自分の研究を好きすぎて、「あれもこれも示唆できる」と誇大解釈してしまうこと。考察とは、それをいかに抑えて、いかに無駄な主張を削り取っていくかが勝負になる。

 

図表

極力情報を削減すること。多角的に解釈できてしまう情報量は本当に必要なのかを考える。というのも、書いている本人にとっては全体像が分かっているので、この論点では図のここを見ればよくて、あの論点では同じ図のあそこを見ればよい、というのも簡単に思えてしまう。しかし、読み手にとってはそのような事前情報を持ち合わせておらず、苦戦してしまう。理想は、誰がその図表とキャプションを読んでも、同じ解釈にたどり着くように単純化すること。